私のからだが教えてくれたこと

日々の気付きや暮らしの手仕事のこと

原因不明の体調不良が一気に治った時のこと

note記事(2021/6/10)より転載

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実は謎の体調不良(自律神経の乱れと思われる)に見舞われたのは、大学を卒業後一社目に勤めた会社を辞めた直後にもあった。

なかなかにストレスフルな業務だったから、ようやく解放されてホッとしたのだろう。しばらく妙な体のダルさや目眩、食欲・体重減少等にしばらく悩まされていた。

それでも「今しかできないことをしよう!」と、ここぞとばかりに旅行に行ったりしていたから、それほど深刻でもなかった。

なかなか良くならないので気にはなりつつも、せいぜい「夏バテかな?」程度にしか思っていなかった。

そんな中、私は失業保険を受け取るまでの空白期間を利用して、前々からやりたいと思っていたWWOOF(食・住と労働力の交換@有機農家)体験を兼ねて長期の旅に出ることにした。

親からは「アホか」「そんな体で農業なんてできるわけない」と言われたけど、気にせず「何とかなるでしょ」と、痩せ細った体に重いスーツケースを転がしながらヨーロッパへと旅立った。

若さのパワーってスゴい、とあの頃の私を振り返ってみて感心する。

数日間はふらふらと北イタリアを観光していたのだけど、相変わらずすぐしんどくなって休み休み動いていた。

そのうち、トレンティーノ=アルト・アディジェ州、ドロミティの山奥で受け入れてくれるホストが見つかり、本調子ではない体に少し不安を覚えつつ、ホストのお宅に向かった。

サンタクロースのような立派な髭に藍色の作務衣を着たホストのおじさんが村の最寄りのバス停まで迎えに来てくれた。(この人が私の人生のマスターと勝手に認定することになるカルロだ)イタリアの山奥でこんな出で立ちの人に会うと思っていなかったので少しビックリした。

カルロの家は、バス停から1キロほど離れた人口60人に満たない小さな集落にあり、夏の間の避暑地としてアグリツーリズムのペンションを経営していた。

農作物等はほとんど家の畑で育てていて、今奥さんがリウマチであまり動けないので、私には家事手伝い等の簡単な仕事を手伝って欲しいという。

WWOOFでは結構重労働を求められることも多いので、体力のない私には助かった。

夏もそろそろ終わりでオフシーズンに入りかける頃だったから、お客さんもまばらで、ラッキーなことに私は一つの客室を部屋としてあてがってもらった。

カルロが建てたという自宅兼ペンションはどの部屋も木の暖かみがあって小綺麗で快適だった。

山での生活で体調が一気に回復

そこから毎日、朝起きてから鶏のエサやりと卵の回収、飼っているポニーにもエサをやって、お客さんに出す朝食の準備や、シーツやタオルなどの洗濯、その日食べる分の野菜の収穫、冬に備えて乾燥させた薪を倉庫に運んだり、カルロが作るハーブ製品の袋詰めや販売のお手伝い等、朝から晩まで、とにかく山での暮らしを全身で味わった。

仕事が一段落ついた時は、とってもおりこうな飼い犬のスージーを連れて誰もいない森のそばの草っ原に行き、寝そべっていた。

自分は「人間」という何か特別な生き物ではなく、そこにある木や草や虫や動物と同じただの「生き物」であり、自然の一部でしかないことを強烈に感じるという体験をしたのもこの時だ。

山の人達は見ず知らずの、しかもここらへんでは珍しい東洋人に警戒することもなく親切に接してくれた。

空気も泉の水も美味しいし、何よりも、採れたての新鮮な野菜がこんなに美味しいと思わなかった。味が濃いのだ。もちろん、農薬なんて使っていない。

気付けば3日も経たないうちに私の体調はすこぶる元気になっていた。ホストファミリーもビックリするぐらい食欲旺盛になり(山で採ったポルチーニ茸のパスタの美味しさったら!)、体重は一週間で一キロのペースで増えていった。

私にはもう奇跡としか思えなくて、どうしてもなかなか良くならなかった体調がここに来てあっという間に回復したことを興奮しながらカルロに伝えると、彼はにっこり笑って「山の空気が美味しいからね」と言った。

まるでアルプスの少女ハイジに出てくるおんじのセリフのようだなと思ったけど、まさにアルプス山脈のど真ん中、私はハイジみたいに暮らしていた。

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この経験から、圧倒的な自然の中で、またそのリズムに沿って過ごすことは、自分の体の本来持っている健康のバランスを取り戻すのにとても役立つんじゃないかと思っている。

少なくとも私には、そのやり方が合っている気がする。

それを確かめるために、もう一度、イタリアじゃなくても良いから、大自然の中でしばらく暮らしてみたいと思っている。

私の家の周りにも自然はあるけれど、人工的な自然だし、やはり町の分量が多いので、大自然とはかけはなれている。

そんなんじゃなく、自分の存在を小さく感じられるような、畏怖すら感じられるような大自然がいい。

私が出来るだけ加工食品を避けたり、無農薬等の安全な食べ物を口にしようとしているのは、あの時の環境に出来るだけ近づけたいからでもある。

ドロミティの家に20日間ほどの滞在で別れを告げた後、なかなかお互いの希望の合う受け入れホストが見つからなかったので、この旅では一回しかWWOOF体験はできなかったけど、二ヶ月間の旅の中で一番心に残る大切な思い出となった。

今は日本でもホストがずいぶん増えているし、WWOOFは世界各国にあるので、またいつか行くぞと思っている。

お金をかけずに世界中いろんな場所に滞在できるし、単なる観光旅行とは違ってその土地の人達の生活を身近に知ることが出来る。

WWOOFをもっとたくさんの人達、特に若い人達に知って欲しいなと思う。